開催日:2021年8月24日(火) ~ 2021年8月29日(日)
もう四半世紀も前のことですが、身の丈に合わない理想に傾倒して制作に行き詰まり、
何を作ればよいのかわからなくなった時期がありました。
悩んだ挙句、自分は何がほしいのかと考えて思い出したのは、ある場所の水たまりでした。
小学生の時、家の近所にセイタカアワダチソウの群生する空き地がありました。
道路に面する一角は裸地でトラックが止められ、Uターンの際にはセイタカアワダチを踏み倒して、細長い轍を作っていました。
梅雨の時期、轍には水がたまり、深いところは水深20センチ程にもなりました。
覗き込むと枯れた茎が底に沈み、柱のように乱立し、水没林のようでした。
小さな水没林には多くの水生昆虫が飛来し、小さな生態系を営んでいました。
今では考えにくいのですが、ミズカマキリやタイコウチも見つかりました。
(ゲンゴロウやタガメはさすがに来なかったです。)
日差しの中、覗き込むとミジンコやミズムシ、ヒメゲンゴロウなどの小型の虫が列柱の間を縫って泳ぎ、柱の陰にはミズカマキリやヒメタイコウチの捕食者が潜み、ミズスマシやアメンボが水面を滑る。
たまった雨水は澄んで明るく、水底の隅々まで見渡すことができました。
ふと思い出した、小さな頃に大好きだった光景を、水槽のように切り取って手元に置いておきたい。
昆虫とかカエルとかそういうのが好き、そういうものがほしい。
意味とかどうでもいいので好きなものを作ると、半ば開き直って今につながる作品が生まれました。
今度の個展では、水たまりというミニマムな環境を、会場のところどころに再現できればと思います。
僕の原点ともいえる、小さくて、狭くて、覗き込めば深く、想像は広がる、水生の心象風景。
水中と水面と水上のある空間を楽しんでいただければ幸いです。