2026ENTRY

2025ENTRY

ノリタケブランドを広める
SPECIAL
EPISODE
4

ノリタケブランドを
広める

食器事業部 商品開発部 商品企画グループ
1992年入社
M.K

ノリタケのブランドイメージを変える食器の開発。
人の気持ちに働きかけることから、挑戦は始まった。

「真っ白で美しい食器」を作ることは、いつの時代も世界中の磁器の作り手にとって、憧れだった。もちろん、ノリタケという会社も例外ではない。明治の時代、ノリタケのルーツである森村組の創業者たちも同様に夢を抱き、製陶事業をスタートさせたのだった。

そして、2012年。新たにその夢を形にした商品が発売された。名前を「シェール ブラン(cher blanc)」フランス語で「親愛なる白へ」という意味で、このつややかで美しい純白の生地色を目にするだけで、そこに特別なこだわりが注がれていることを感じ取ることができる。特別なこだわり。これなくしてシェール ブランが生まれることはなかっただろう。

まず、この商品を象徴する「究極の白さ」。商品開発を担当したM.Kは、それを実現するまでに様々な紆余曲折を経験した。

「今までにないシンプルなのに華やかな食器を、真っ白な磁器で、それを引き立てる精緻なレリーフを入れて作りたい」

その要望を初めて技術部門の責任者に伝えた時、「作れない」という答えが返ってきた。ノリタケ特有の厳しい品質基準と品格を維持するためには、技術部門としても安易に受けられるものではなかったからだ。

そこでM.Kはある行動を取った。当時もっとも白くて美しいと評判だった海外ブランドの食器を買ってきて、責任者の目の前に差し出したのだ。

「他社がここまでできるのに、なんでウチができないのですか? この食器を超える商品を作りませんか?」
と訴えた。まるで挑戦状を突き付けるかのように。

言われた相手も、長年この道を歩んできた技術者。闘志に火がついた。

「分かった。作ってやろうじゃないか」

実はM.Kは、この要求の難しさを知った上で依頼していた。この商品を作るためには、通常の商品開発では行うことの少ない素材開発から始める必要がある。原材料の成分や、釉薬の種類、焼成の条件……ありとあらゆることを調整し、検証しなくてはならない。万が一品質に不具合が生じれば、ノリタケブランドに傷がつくことになる。新しい素材を開発することは、きわめて大きなハードルだった。

しかしそうしたハードルを乗り越える挑戦が必要だとM.Kは考えていた。それは、自社の将来を見据えた「変化」の必要性である。

「ノリタケはこのままではいけない」
という強い危機意識があった。伝統あるブランド。格式高い食器の数々。そうした従来の固定化されたイメージを乗り越えなければ未来はないと思えた。「新しいノリタケ」を象徴するような、突破口となる商品が何としても必要だった。

この商品を開発する前段階として行われたのが、女性社員のみのプロジェクトチームによる活動。国内営業や海外営業、開発、小売店の販売など、様々な部門から女性社員が集められ、調査や検討が行われた。「自分の家でどういう食器がよく使われているか」「今の世の中で支持されている商品とは、どのようなものか」ここで話し合われた結果が、シェール ブラン開発の重要なベースになっている。

ターゲットを決めるにあたって考えたのが、「そもそもどんな基準で食器を選ぶか?」という根本の部分。その中で見えてきたのが、「女性が結婚する時に、お母さんと相談しながら食器を買う」というひとつの購買シーンだった。結婚して新生活をスタートさせる時に、自分の手に取って選んでもらえる食器。初めて使ってもらう「ノリタケ」。そんなコンセプトだった。

では、これまで他社の商品を使っていた人に、ノリタケブランドを選んでもらうにはどうしたらいいのか。そのヒントを得るために行ったのが、ターゲット層へのグループインタビューである。この中で多く聞かれた意見のひとつが、「デザインがオーバーデコレーション(装飾過多)だと感じる」という意見だった。

オーバーデコレーションという印象を与えない商品を作る。そのためには、若い女性が使いたいと思えるような、デザインのモダンさが求められる。しかし、単にモダンなだけではお客様に受け入れられないことも、それまでの経験から分かっていた。お客様が潜在的に求めている「ノリタケらしさ」、すなわちエレガントさを失ってはいけない。そのバランスを調整していく中で、「毎日使っても飽きのこないレリーフの入った真っ白で美しい食器」に、ぴたりと焦点が定まった。

そうした思い入れがある以上、デザイナーに意図を伝える際も決して妥協はしなかった。自分の考えを何度も伝え、議論を重ね、お互いに心から納得できるデザインを完成させた。そして、一から素材開発に取り組んだ技術部門のメンバーも、プロとしてのプライドを持ってM.Kの思いに応えた。

「ようやくできたよ」
と、あるとき前触れもなく見せられた試作品は、白さと薄さ、レリーフの美しさ、そのすべてがM.Kの想像を超えていた。

さらにM.Kが所属する商品開発部のメンバーは、この商品の魅力やポイントを伝えるための詳細な資料を作り、販売に携わる社員への浸透に力を注いだ。社内から疑問が寄せられれば、その資料を手に熱く思い入れを語った。

「この商品は、ただの白い食器ではない。これをノリタケのロングセラーに育てねばならない」

社内全体にその思いを理解してもらうまで、約1年もの時間が費やされた。

そして2012年の2月に発売されると、事前の期待を上回るほどの高い評価が、瞬く間にM.Kたちの耳に飛び込んできた。販売面も好調で、ノリタケの画柄別ランキングでも常に上位にランクし、今ではアイテム数も当初の倍以上に拡充。その人気は定着しつつある。そしてM.Kにとって何よりもうれしかったのが、たまたま売り場を訪れたときに耳にしたお客様の声だ。

「このシリーズ、とっても好きなのよ」

そのときのことは忘れることができない。

「約3年という開発期間は本当に大変でしたが、様々な人の協力と努力があって完成させたこの商品を手にすると、それを大きく上回る喜びが込み上げます。今後ノリタケの新しい顔になるような商品の開発に携わることができたのは私の誇りです」

商品開発を担う者として、M.Kが今後作りたいと考えているのは、お客様の記憶と、ノリタケという会社の歴史に残る商品。

「あの時代にみんなに喜ばれた商品があったね」
といつか振り返ってもらえるような商品を作ることが、叶えたい目標だ。

※社員の所属部署は取材時のものです。

PROFILE

PROFILE

PROFILE

入社後、セラミックマテリアル事業部の営業職を経て食器事業部へ異動。小売店の運営や営業企画などの業務を経験した後、商品開発部へ。2012年2月発売の「シェール ブラン(cher blanc)」の開発に携わる。

PAGETOP